啓発 > 経営幹部に求められる役割は何か[後編]

経営幹部の最も大きな役割は「新たな儲かる仕組み」を考え、ビジョンとして提示することにある。
重要なのは、「正しいか正しくないか」でなく、自分は「何をやりたいか」だ。
そして、それを最前線にまで自分の言葉で伝達することができるかどうか。
さらには、業績だけでなく「人」への強い興味、自分自身に対する管理能力、自らが出したバリューの検証など、変化の時代にあって、経営幹部に求められる新たな条件を解き明かす。

業績や仕事内容だけでなく「人」そのものに興味を持つ
実際に仕事が回り始めたら、進捗具合や結果としての業績もしっかり検証しなければならない。ここで忘れてならないのは、自立組織における利益の源泉は第一線の人間たちの創意工夫にあることだ。そのため、経営幹部は業績や仕事内容だけでなく、「人」そのものに対しても強い興味を持つべきだ。そして、よりポテンシャルの高い人材を発掘し、よりチャレンジングな仕事を与え育成していく。人材育成に力を入れたGEの前CEO、ジャック・ウェルチは「質問魔」として知られた。ことあるたびに社員に質問を浴びせかけ、それも本質的な問題についての質問を突きつけ、執拗なまでに人材のポテンシャルを見抜こうとしたのだ。
 既存の序列組織では、成果を出すと報酬としてポストが与えられたが、今は優秀な営業マンが必ずしも優れた営業部長になるとは限らない。また、人材の評価も、経験で培った“人を見る眼力”だけでは通用しない。個々の人材のコンピタンシー(継続的に成果を出すことのできる行動能力)やパーソナリティー面での動機の強さなど、人材を見る科学的な目とノウハウも身につけるべきだろう。
 ところで、経営幹部自身に目を向けると、強いリーダーシップを発揮する人たちは、それぞれに強い動機を持っている。ジャック・ウェルチは、自伝などを読むと、若いときから強烈な上昇志向を持っていたことがわかる。人間の動機には、ほかにもさまざまなものがある。真実探求への執念、ユニークさへの徹底したこだわり、価値あるものを達成しようとする強い思い…等々、それがその人のパーソナリティーとなっている。
 ところが、動機は強ければ強いほど、使い方を誤るとマイナスの影響が出る。カリスマ的経営者があるときから暴走し始め、会社に危機的状況をもたらした例は数々ある。映画『スターウォーズ』のダースベーダーも、若い頃は優れたジェダイの騎士だったが、マイナスの感情を持ったことで、ダークサイドへと落ちてしまった。リーダーシップも使い方を誤ると、周りから怖がられたり、奉られたりして、「いい情報」しか入ってこなくなる。ダースベーダーにならないためには自己管理は不可欠の条件であり、経営幹部として、常に自分を自分でモニターしていく必要がある。

経営幹部も自らのバリューを問うべき
さらに経営幹部といえども、常に新しい知識の習得に時間を使うべきだ。とかくポストが高くなると、勉強は若い世代に任せ、自分はこれまでの経験と実績で判断し、そこに自分の価値があると考えがちだが、今は過去の成功体験などすぐに陳腐化する。経営指標も、売上高と経常利益を見る時代は終わり、EVA(経済的付加価値)や、多様な指標を組み合わせるバランストスコアカードなど次々と進化している。会計基準も日本の基準だけを見ていればいい時代ではない。米国の経営幹部が帰宅後も猛勉強するのは、経営環境の変化に対応した知識を身につけるためだ。
 最後に日本でもう一つ欠落している点を指摘しておこう。日本では中間層以下には成果主義を徹底しても、経営幹部は適用除外になっている例が多い。もし、適用されて成果が出なかった場合、退任しかないがそれがなかなかできないからだ。しかし、経営幹部こそ、会社の業績に対して、自分がどれほどバリューを出したか、一つひとつ自ら検証すべきだ。
 ある外国の経営者からこんな話を聞いた。新任の社長が前任者から、「経営が苦境に陥ったら1通ずつ開けなさい」と3通の手紙を渡された。1度目の苦境。1通目を開けると「前任者のせいにしろ」とあった。2度目の苦境。「環境のせいにしろ」。そして、3度目。「3通の手紙を書いて次の人に渡せ」。バリューを出せない経営幹部には3通目の手紙が用意されていることを自覚すべきだろう。

◆POINT
 ビジョンの定め方
――何が正しいかではなく、どうしたいのか
これからの時代のビジョンは、何が正しいのか誰もわからない。重要なのは、正しいかどうかではなく、自分が「何をやりたいか」

抽象性の高い概念を自らの言葉で直接伝達する
ビジョンを浸透させるには、組織階層による“伝言ゲーム”ではなく、経営幹部自ら全員に向かって直接自分の言葉で伝えること

業績、仕事ばかりでなく「人」に興味を持つ
個々の人材のコンピタンシーやパーソナリティー面での動機の強さなど、人材を見る科学的な目とノウハウも身につけること

新たな勉強を欠かさず自らのバリューの検証にこだわる
米国の経営幹部は帰宅後も猛勉強する。経営幹部こそ、会社の業績に対して、自分がどれほどバリューを出したか、一つひとつ自ら検証すること